価値観の伝承 

   

 ジューンブライドの影響か、6月になるとウェディングドレスや結婚に関する特集をよく目にします。先日もある有名人が「彼のどこに一番ひかれたか」との質問に「自分にないものをもっているから」と、答えていました。確かに自分に無いものが魅力的に見えるのは、『無いものねだり』とか『隣の芝生は良く見える』と云う言葉があることからも理解できます。

 ある人は、「人は自分と相性が一番良いと思って結婚するが、実際は自分と相性の良くない相手を選びがち」と言っていました。そしてその結果離婚理由として、価値観の違いや性格の不一致をあげるケースが多いように思います。価値観の違いはトラブルの基となりがちで、そんな相手と一緒に生活するのは確かに大変だと言えます。

 夫婦であれば離婚する事も可能ですが、親子の間ではそうは行きません。

 多くの場合、親の意思に反し幼児は幼児なりの価値観を育てていきます。僅かな時間でも幼児は毎日家族と離れて生活します。その際「園という集団生活の中で、どのような言動をとるか」を、幼児は自分で決めなくてはなりません。

 人は体験の中から多くを学びます。多様な価値観を持った仲間の中で行動し、返ってきた結果をふまえどんな価値観を身につけるかは、それまでの価値観に照らし合わせるほかありません。つまり、園に入園する前の価値観や園にいる以外の時間での価値観に照らし合わせて判断していると言えます。

 このように家族は一時も離れず暮している訳ではないので、個人の環境の違いにより価値観のずれが生じていきます。もし、家族間で同じ価値観を共有したいのであれば、日頃からコミュニケーションをしっかりとっておく以外、方法はありません。

 

 入園当初は喜んで登園していたのに、だんだん行きたがらなくなる幼児がいます。なんとなく園が嫌いなのではなく原因ははっきりしているのに親が理解できないケースで、とかく解決が遅れがちです。

 教師に理解を求める事で解決することが多いのは、幼児の教師に対する不信感が原因の事が多いからです。意図的に幼児に意地悪をしたり無視した訳でなくても、幼児が求める時すぐに応えてあげられなかったり、幼児の意思を理解して対応してあげられなかった場合もあるのが現状です。幼児の中には、なんでも自分の思い通りになる日常を当たり前だと感じている子もいます。そんな子には不満だらけの日常になったとしても何の不思議もありません。

 また、してはいけない事をした時きちんと説明されて育った幼児に対し「○○ちゃん、そんなことをしてはダメでしょ!」といきなり言ったり次の行動をせかしたら、その子はどう思うでしょうか。また、自分の後ろにいた子が押した為よろけて前に並んでいるお友達を押し倒してしまった時、「○○ちゃん、お友達を押しちゃダメでしょ。ちゃんと謝りましょう!」と言われたら…。自分も被害者なのにと云う思いをうまく伝えられない、解ってくれないという思いから不信感を募らせたとしても責める訳にはいきません。

 

 『少しぐらい喧嘩してもじょうぶに育った方が良い』『怪我をしないよう、たとえ御ふざけであっても大人しく遊んでほしい』、『自分の子が良ければ、他の子はどうでも良い』というように親の多様な価値観を自分のものとした幼児が集まる場所が園です。でもその多様な価値観を持った人(子供)が居るという事、人間としてやってはいけない事やできればやらない方が良い事があるという事を知らせる場が、集団生活だとも言えます。

 園で起きる様々な場面で適切な判断を下すのは本当に大変なことですが、それを行うのが教師としてのプロだ、とも言えます。教師のスキルの向上(現れた事の原因を見極め、皆に何を学習させるのか判断し、その場に居合わせた幼児に理解・納得させる)教師と親が価値観のすり合わせを行うが、幼児の価値観の混乱を招かないための必要条件ではないでしょうか。教師とは言っても学校出たての新米教師(保育士)が多い現在、教師を育てるのも保護者の役目です。教師をつるしあげたり教師にまかせっぱなしにするだけではなく、親の考えを教師に伝える努力をし教師を育てることが、我が子との価値観のずれをふせぐ一番の方法だと思います。

 幸いオムニパークのお母様方は、「人に迷惑をかけない」「思いやりを持って人に接する」と云った人間の基盤とも言える価値観を共通してお持ちだと、私は感じます。が、そうでない大人に育てられた幼児が、友達に危害を加えたり自分勝手な行動をしたとしても、何の不思議もありません。つまり我が子が安全に楽しい毎日を送るためには、我が子だけではなく、まわりの取り巻く環境そのものも変えていかなくてはなりません。そんなことを言わなければならなくなったのは悲しい事ですが、最近の事件を思う時仕方がない、と感じる方も多いのではないでしょうか。

 ずれた価値観を共通のものにする方法として叱るという行為があります。叱ると言うと大声をあげたり一方的に幼児に話すような印象があります。が、これはまさに価値観を伝える行為そのものです。

 叱る時は、最初になぜその行為をしたのか、尋ねましょう。そして、その行為の正当性について親子で話しあってください。そして、意見が違ったら親の考えを話してあげましょう。そうする事で、そんな捕らえ方があったのかと気づきます。その場で謝る事はできなくても幼児は記憶に残します。

 その際くれぐれも子供のペースにはまらないよう気をつけてください。ポイントをしっかり留意していないと、幼児のその場の言葉や表情に惑わされがちです。相手は幼児だからと捉えず、親の価値観を正確に伝える努力をして下さい。そしてそのスキルを身につけ、我が子にご自分の価値観を真剣に伝えましょう。これは、将来余計な家族のトラブルを防ぐ上でも大切な事だと私は考えます。

                                                       (文、福岡潤子)                


          

 

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