病は人を育てる 

 

墨田中学校の三橋先生は、荒れていた学校を再生した先生と云うことで全国を講演し飛びまわっておられます。昨年末その墨田中学校で、起業家教育の一環としてクララオンラインの代表の家本賢太郎氏の公開授業が行われました。
小学生の頃より体のいたるところにおできが出来、手術のあとが何箇所もある。そんな中、ある時脳に腫瘤がみつかり手術。頭部を切り裂くような手術ではなく比較的気楽に受ける。が、術後しばらく意識が戻らず、まばたきでしかコミュニケーションがとれない状態になる。その後回復するが車椅子生活となる。その頃コンピュータと出会い、世界中の人とメールをやりとり、国による考え方の違いなど知る。中学・高校と通学できず大検により慶応大学に進む。(今現在勉強ができずにいたり、思い通りにいかなくてもやり直しはきく)。自分の体験から、コミュニケーションの道具としてのインターネットを皆に広めたいと考え十五歳でプロバイダ会社を起こす。その後、奇蹟的に回復、現在に至る。

 人づてに聞いた話ですが、慶応大学湘南キャンパスから関西のテレビ局に行く時はチャーターしてあるヘリコプターに乗っていくのだそうです。いやはや、なんというバイタリティ。それもそのはず、私の計算に間違いがなければ彼は今年成人式なはずです。私自身にも今年成人式を迎えた娘がいますが、なんとものんびりと育ち、家本氏と同じ年とはとても思えません。このように母親でもある私が彼の講演後思いをはせたのは、まず、ご両親のことでした。ここまで成長する間どんなにご心配であったかと云う事、そして、『素晴らしい若者にお育ちになって本当によかったですね』という気持ちでいっぱいでした。

 車椅子生活や病気の不安の中、それに打つ克つ精神力があったこと。苦境の中自分の未来を見出す力、それをモノにするだけの努力を厭わなかったこと。50才を過ぎた私が、自分よりはるかに年下の彼に尊敬の念を抱いて帰ってきたのです。北野たけし氏が「ここが変だよ、日本人」という番組の中で車椅子の人たちを前に「こういう人たちのほうが、我々よりよほど精神的には健全なんだよな」と、ぽそりとつぶやいていたことを思い出しました。

新春にあたり、「今年一年の展望」や「これからの日本」という文字をよく目にしましたが、昨年に引き続き不況やテロなどの影響が多く良い材料は全くと言ってよい程見当たりません。そんな中、本格的なブロードバンド時代を迎え、一部の人しか知り得なかった情報がますます手軽に誰の手にも入るようになり、家電やモバイル機器の発達も加速し生活は、より便利になってきます。

 反面、個人情報の流出は今まで以上に多く起きてくると言え、ネット犯罪もますます問題になってくることはいうまでもありませんが、それらを起こす人達の感覚は、犯罪ではなく自己主張のかたまりや無神経にものを言う日常の延長線上にあると言え、この意識改革が重要になってくるのではないでしょうか。

 ある識者が「法的整備を行い、モラルを教育する必要がある」とテレビで発言していました。するとすかさず「その前に、(今の学校の)先生に(は)、そのような教育ができないのでは?」と云う意見が出ていました。文部省がゆとりの時間を増やし教科書の教え方の改訂が行われても、実際に教える側の先生方がすぐにそのスキルを身に付けられるのか、話しは常にそこで止まってしまうのは本当に残念な事です。

 

 家本氏は商談相手が階段の上にいると、車椅子から降り萎えた下半身を引きずりながら上まで登ったそうです。そんな彼も、体が全く思うように動かなかった時自分の手が動いたなら自分で自分の首をしめたかった、足が動ければ窓から飛び降りたかったという状況もあったそうです。が、そんな状況から心身ともに回復したのは、まさに奇跡としか思えません。講演中、目の前の中学生達に何度も「諦めない事!」と真剣に訴えていました。

 彼の講演を聞きながら、まさに病は人を育てると実感し感動しました。今ほど精神の健全な発育が望まれ注目されている時代はありません。本人にとってぬるま湯に浸かる事の方が楽なのは言うまでもありませんが、その結果が良くないものである証拠が世の中にこれだけ溢れている以上、時には寒中水泳や多少熱めの湯に我慢して入る等の体験をさせる必要があると言えます。車で娘を成人式会場まで送り届けたところ、色鮮やかな羽織袴姿で闊歩している暴走族ばりの若者が何人か目に付きました。自分に対して世の中に対して甘えきっていると感じたのは私だけでしょうか                                

文、福岡 潤子

 

    

ホームへ(ホームページ目次でご覧の方はこちらから) 歳時記表紙へ歳時記目次でご覧の方はこちらから)
ホームへ(左に目次の表紙のない状態の方はこちらから) 歳時記表紙へ(他の歳時記をご覧になりたい方はこちらから)