新学期を迎えて

 

  テレビの対談番組で聖路加病院の日野原重明先生がこんな話をなさっていました。

 「医者にとって患者は商品、そう思ったらモノになってしまいます。同じ人間として、ちゃんと患者さんの気持ちを理解することが大切なんですね。」また、「患者さんの時間、つまり命をいただいている。私のような年寄りにとっても命というのは時間なんです。その時間をどのように使うかなんですねえ。」と。

 日野原先生は歳の現役のお医者様です。若い研修医にはご自身が診療なさっている様子を必ずみせるそうです。どんな口調でどんな接し方をしているのかを直に見る事が大切だと話されていました。日野原先生が「様子はどうですか」と手をとりながら聞くと、担当医の勧めるリハビリをいやがる末期の患者さんが心を開き、リハビリの何が嫌なのかを話し出し最後には自分からリハビリを行うと言い出したのです。

 相手と同じ目線で話すことの大切さも話されていました。患者にしても幼児にしても、弱いものにとっては高い位置からの視線は威圧的に感じるものだ、ということは容易に察しがつきます。だからこそ手をとって互いにぬくもりを感じあったり、同じ位置で目線を揃えることが大切になってくるのです。患者の心を開くスキルも学習からだったのですね。

 幼児と一緒に居ると時間の流れが緩やかです。が、過ぎてしまうとあっという間だった気がします。一見緩やかに見える時間ですが感じ方が違うだけで、誰でも平等に同じ時間が流れています。4月に入ったつい先日、中学一年生(1歳から5歳まで通室した子どもたち)が挨拶にきてくれました。皆、オムツをしている頃からのお付き合いですので、さまざまな事が思い出され、懐かしさと共に立派に育った嬉しさを感じさせていただいた数時間でした。

 彼らはこれから本格的な思春期を迎え、将来の展望も含めた進路も確定する大事な時期にさしかって行きます。幼い頃は、世話をするだけで一日が終わる大変さがあります。が、成長と共に、心を砕くことでしか力になってやれなくなりますその方が大変なのはお解りいただけると思います。そんな子ども達を見守るお母様方の視線は、実に優しく穏やかなものでした。

 そんなプロの母親としての落ち着きや誇りを感じさせるお母様方のお一人が「オムニパークに通わなかったらと思うとぞっとします。」という言葉をおっしゃいました。私にとっては時々耳にするフレーズですが、振り返るとそんな思いを持たれるのだと思います

 幼児にもお母様方にも時間はたっぷりあります。が、それぞれの年齢の1学期は二度ときません。その年齢にふさわしいものをきちんと身につけ、次の学年を迎えたいものです。

                                     

                       (文、福岡潤子)


          

 

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