月間「致知」随想
母と子のコミュニケーションが子どもの才能を開花させる

 

最近「幼児教育」という言葉を耳にする機会増えました。

幼児教室も各地に続々と開設し、目的も教育方法も教室によって多種多様。少子化の影響からか、幼い子供の教育に関心のある親御さんが増え、時代の要請が強まっているのを感じます。

 かくいう私も千葉県松戸市で「母と子のオムニパーク」という幼児教室を運営しています。 激化する幼児教育ブームの中、自分の理念を貫き通して二十年。少人数制で、派手な宣伝を一切してこなかったにもかかわらず、遠方から通ってきてくださる 母子にも恵まれ、地道に活動を 続けてきました。要因はやはり通ってくる親御さんたちの、「ここは普通の幼児教室ではないよね」という言葉に集約されているのかもしれません。

 そもそも私が幼児教室を開校するに至ったきっかけは、幼稚園の教諭をしていた頃、「年長さん」と呼ばれる五歳児のクラスを三年連続で担当する機会に 恵まれたことでした。毎年同じ学年の子ども達と接するうちに、私は子供の教育に関わる上で非常に興味深い、一つのことに気がついたのです。

 落ち着きのない子や聞き分けの良い子。子ども達の行動や性格は、一見、生まれつきかと思われます。しかしよく見ていると、「あ、この子は去年○○先生のクラスだったな」と、担任した先生の影響を色濃く受けていることがわかったのです。

 入園してくる子どもはある意味白紙。幼稚園教諭との毎日のかかわりが、子供の正確や行動をつくっていくのだ−。このことは、私の教育観に、非常に大きな影響を与えました。

 ところが、次に三歳児の担任になると、この考えの一部は見事に覆されました。入園時にはもうすでに、各家庭の色がしっかりついているのです。子どもがいかに周囲の大人の影響を強く受けるか。当時まだ子どもがいなかった私にとって、これはとても面白事実でした。

 その後、二人の娘の母親となった私は、子育ての難しさに直面 しました。教師としては多くの親御さんに「この先生なら安心ね」と言っていただけるレベルまで達していたプロであったはずなのに、母親としてはまったくのアマチュアであることを悟ったのです。

 教師でも母親でも、子どもを 育てるということは、一人の人間を育てるということ。母親としてアマチュアだからといって、言い訳することは決してできません。

 私の中で、「幼児教育」と「子育て」が一本化されました。そこで、「幼児教育だけを行うのではなく、多くの母親達に「子育ては学習である」ことを理解してもらい、プロの母親としてのスキルを身につけてもらおうと「母と子の」教室を設立したのです。

 オムニパークでは、特に目新しいことをやっているわけではありません。世の中を驚かせるような才能や技術を身に付けさせようと、英才教育をしている わけでもありません。授業内容は、お絵かきや音楽、作文、運動など基本的なものが中心です。

 特筆するならば、幼稚園教諭の経験を活かし、大脳生理学や心理学上一番適当な時期に適当な活動をすることで、子供にいい刺激を与えられるように心がけていることくらいでしょう。

 重要なのは、内容ではなくその与え方にあります。母と子のコミュニケーションスキル、「声かけ」がポイントなのです。

 たとえば一緒に買い物をしている時、子どもが商品をペタペタ触り、買い物カゴに入れてしまうとしましょう。皆さんならば、なんと注意するでしょう。

「触っちゃダメ」「そんなことするなら、つれてこないよ」

私に言わせれば、これでは不十分なのです。どうして触ってはいけないのか。買い物とは本来なんであるか、という一番肝心な物事の本質を伝えていないからです。 これを機に「買い物とは必要なものだけを取ってカゴに入れる」こと、そして、「レジでお金を払うまで商品は、お店の人のものである」ことをきちんと教える必要があります。

 こどもがイスの上に立って 遊んでいる時も同様です。「あぶないからやめなさい!」では不 十分。なぜ、イスの上に立って 遊んではいけないのか。「あぶない」というだけでなく、「イス=座るもの」ということを子供にきちんと伝え、言葉と共にきちんと概念化する必要があるのです。

 幼児期は人間の土台を作る一番大事な時期です。基礎が深く強固でなければ、どんなに高いビルもすばらしい建物も建てられません。幼児期に物事に本質や概念を性格に教えていることで、子どもの表現力や考える力は 驚くほど伸びていくのです。

 特別な英才教育をしていないにもかかわらずオムニパークの子ども達が作文や習字で賞を 取ったり、受験で九十%以上の 高い合格率を誇るのも、基礎づくりが成功しているからなのです。

 世間では、「子どもだから」という理由で許したりごまかしたりしている部分が多々あります。しかしどんなに小さくても、一人の人間。親は人間を育てているのだという自覚と緊張感を持って真剣に子どもと向き合い、コミュニケーションを取り続けなければいけないのです。子供にとっては、親の言葉や行動一つひとつがメッセージであり、教材なのです。

 いま多くの問題や犯罪がコミュニケーション能力の不足から引き起こされています。人は一人では生きられませんし、仕事も 芸術も、自己表現というコミュニケーションの一つ。子ども達には将来、本当の意味で幸せな人生を歩んでほしい。

 「自己を活かし、他者を認めることができる」ようになってほしい。そのためには、子どもと毎日接する親とのコミュニケーションが非常に大事です。

 真剣に向きあえば、子どもほど感動や喜びを与えてくれる存在はありません。多くの親に子育てのスキルアップをしてもらい、次世代を担う子どもたちのしっかりした人間力を培ってほしいと願ってやみません。

(ふくおか・じゅんこ=幼児教室主宰)

                      福岡 潤子