教職大学院

  先日新聞に教職大学院のことについて書かれていました。まだ全国にも数えるほどしかなく、充分告知もされていません。認可も少なく、昨年の4月に入学した方々が実質的に日本で始めての教職大学院生で、この4月からスタートの学校もわずかです。

 外国には教員専門のマスター制度もありますが、日本ではありませんでした。私の知る限り日本では、修士を持たなくても園長・教頭・校長になれると思います。現在うかがっている幼稚園にいる保健の先生(元病院の看護婦長)にこんな質問を受けました。

 「先生、幼稚園教諭に一種と二種があるそうですけど違いはなんですか。」一瞬とまどいました。なぜなら、現場での違いや行なう内容に差があるわけではないからです。

 「短大や専門学校を出た人は二種、大学を出た人は一種です。むかし、幼稚園教諭資格をもらえる学校で大学は圧倒的に少なかったので、ある年齢以上の人はほとんどが二種だと思います。もちろんその後に免許講座などで1種に上申した人もいますが、主任や副園長をしている人々の中で二種のままの人もめずらしくありません。むしろ、最近の若い人たちのほうが4年制大学卒業と同時に幼稚園教諭一種と保育士の資格を得た人の方が多いのではないでしょうか。

 つまり、幼稚園教諭の場合一種か二種かで、幼稚園教諭としての仕事上の差があるわけではなく、むしろ経験年数や役職と持っている資格とが逆転しているのが現状です。」

と申し上げると非常に不思議そうな顔をしておられました。

 看護師の場合はその差が歴然とあるそうですが、幼稚園教諭の場合まったく問題はないのです。

 しかし資格を持っている人とそうでない人と差はないのでしょうか。例えば、世の中に幼児教室・塾と呼ばれる教室やサークルのようなものはたくさん存在しますが、その中の何パーセントの人が幼稚園教諭や保育士の資格を有しているのが疑問です。

 通わせる皆さんは、子どもに関する専門家だという認識で預けられるのでしょうが、専門的知識ではなく、本部から与えられたものをこどもと行なう、あるいは自身の子育てや受験の経験から得たものを行なっているということに終始していることになっているのではないでしょうか。なぜなら、幼稚園と違い認可の対象になっていないからなのです。

 幼児教育に関する知識はなくても、もともとその人に備わっている人間力が子どもに良い影響を与えると言う事はあります。でも、本当にそれでよいのでしょうか。

 実践力だけではなく、確かな知識や学問的な裏づけが必要なのではないでしょうか。

なぜなら、教育基本法の第十一条(幼児期の教育)に「幼児期の教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を養う重要なものであることにかんがみ、国および地方公共団体は、幼児の健やかな成長に資する良好な環境の整備その他適当な方法によって、その振興に努めなければならない。」とあるからです。

 つまり、子どもが人より早く九九を覚えたり文字を書けるようになることが大切なのではなく、成人し社会に出たときに周りの人々と協働することができるようになることであったり、巧くいかないことがあったとしても人のせいにしたり内向するのではなく、前向きに生きていけるようになることだったりするのです。

 逆に言えば、それができる人が年々少なくなってきたことが「生きる力」に象徴されるのではないでしょうか。

 大学院のガイダンスが終わり実際の講座が始まりました。先週毎時間のように行なった自己紹介では、以下のようなことを申し上げました。

「学校出たての3年間、続けて年長さんを持ちました。子どもたちを見ていると前の学年の先生方の色を持ってあがってくる。3才児ではそれがないかと思ったら、しっかり家庭の色を持って園に入ってくる。三つ子の魂百までもと言いますが、それで家庭の重要性を感じました。

 子どもの一番身近な母親が、“幼児教育とは”を知りコミュニケーションのスキルを身につける必要があると思い、おこがましいのですが35歳の時に母と子のという冠をつけた幼児教室を開きました。

 長年現場という特化したところにおりましたが、自分のしてきたことが学術的にどうなのかを知りたくて参りました。

 来年の今頃還暦を迎えますが、この年で学べる幸せに感謝しております。よろしくお願いいたします。」

 幼稚園は今いろいろな問題をかかえています。教職大学院は専門性を持った教員、教員のリーダーを育てる大学院だと言えます。大きな影響力のある幼児期にどんな教師とかかわるかは子どもにとって大問題です。これからの日本の教育を占う意味でも教職大学院卒業生がどんな活躍をするのかは注目されていると思います。

皆さんが「先生、無理をなさらないで。身体だけは気をつけてください。」と心配してくださいます。私は純粋に学びたい気持ちでいっぱいですが、大学院に通ったことがどんな形にせよ皆さんのお役に立てば嬉しく思っています。

千葉県松戸市にあるしんまつど幼稚園でスクールカウンセラーとしてうかがうようになって丸3年になります。そちらの仕事も教室も大学院もインターナショナルの子どもたちのことも無理のないよう頑張りたいと思っています。                                                   福岡 潤子