幼児期の英語教育

                      

「早期に英語教育を行ったほうがよいか」といった質問をうけることが、よくあります。

 公立小学校でもネイティブの先生が英語教育をすることが珍しくなくなり、英語教育が今後ますます盛んになると思います。

 私学ではフランス語を教えるところもありますが、一般的に世界の共通言語は英語という認識があると思われます。人民の多さや中国がこれから世界経済に与える大きさを考え、第二外国語として中国語を選択する学生も増えている昨今です。

 今後、ますますグローバルな世界になっていくことを考えると、第二外国語を学ぶ重要性に対する認識は大きくなっていくと考えられますが、何歳からどのように学べばよいかは、難しいところではないでしょうか。今の段階で分かっていることを元に考えてみたいと思います。

よく、日本人はRとLの発音ができない・苦手だと言われますが、本当なのでしょうか。 それを成人してから獲得することはできないのでしょうか。早くから外国語を学ぶことが脳にどのような影響があるのでしょうか。ないのでしょうか。 母国語を身につけていない幼児期に第二外国語を身につけることの是非など、疑問はつきません。

先日、小鳥の歌から言語の起源を考えるという岡ノ谷一夫(東大教授)氏の論文を目にしました。それによると、小鳥の声は、二つに分かれるとのこと。

ヒナが餌をねだる時や親を呼ぶときなどに発する声など、生まれつき発することのできる発声(地鳴き)と、なわばりの防衛やメスへの求愛のために用いられる学習を必要とする発声(さえずり)です。

岡ノ谷教授は、「一般の学習というのは条件付けに基づく連合学習のことで…。こうした学習は刺激と刺激、刺激と反応を対にして何度も提示する必要があり、さらに正しい連合を示した際に報酬を与える必要がある。

これに対して言語は、何度も提示したり報酬を与えたりする必要がない。それらの学習とは根本的に異なるメカニズムによって習得されると考えられる」と言っています。また、「脳には生まれつき設定されたしくみ、言語獲得装置とよばれるものがあり、普遍文法が組み込まれており、これにもとづいて母語で使われる文法と語彙を獲得する」

「…同種から隔離すると、自分の出す音は聞こえるがデータとして外部の音を取り込むことができなくなる。異なる種に育てさせると、本来学ぶべき歌とは異なる歌が与えられることになる」。

つまり、鳥の実験の結果、言語獲得に感覚学習期と運動学習期があり、前者には「自分が後に歌うべき歌の聴覚記憶(鋳型)が脳に刻まれ」、後者では「歌の聴覚記憶と自己の発生パタンを照合させるように、脳と筋肉を鍛錬する」。つまり、日本人の脳は日本語の発声を自分のものとするように生まれてきていると言えます。

「前者には敏感期・臨界期があり、その時期に生得的な歌の鋳型に合致した歌を学ぶことで、鋳型の形をより明確に具体化するのであろうと考えられる」。基になる言語を自分のものにする時期もまた、限られていると言っているのです。その臨界期は私の知るかぎりでは小学校の2年生だと言われています。

その続きに、「日本人はRとLとの違いが分からないというのは間違いで、日本人はRとLとの違いを無視するように学習してきたのである。しかし そのような学習が完了してRとLとを区別しなくなった成人でも、RとLの発声方法を教え込むことで、弁別できない音韻を発生することも可能であるから、ヒトの運動学習も鳥同様可塑性にとんでいるといえる」とありました。

様々な鳥にいろいろな鳥の声を聞かせるといった実験を行った結果、間違った声を獲得した場合もあったということをうけ、

「これまでの実験でわかったことは、誤差学習も出るのは  一部しかただしくないということである。誤差信号を誘発するような環境にしても誤差信号はえられなかったが、誤差信号を注入すると歌が変わったのだから。

これらの結果を統一的に考えるには、あらたなモデルが必要である。ヒトがなれない題に言語を話すときや、ヒトが演奏中に弾き間違いをした時に、前帯状皮質から五歳に対応する電位が発生する。この電位は鳥の歌における誤差信号に相当するであろう。ヒトにおける誤差信号と言語獲得との関係はまだ分かっていないが、鳥の研究から多くの示唆が得られるのは明らかである」と言っています。  

また、「鳥とヒトでは、そもそも大脳の構造が全く異なっているが、近年の神経解剖学的研究により、異なるのは見た目だけで、機能的にはかなり対応がつくことが分かってきた」と言っています。

日本人の両親から生まれた子どもは、生まれつき脳に日本語を獲得する鋳型を持って生まれてくること、それを獲得するには感覚期とよばれるうちに行なう必要があり、それは感覚期には臨界期があるということだけは確かなようです。  

日本語は、口腔内および口の周りの筋肉をあまり使わなくて良い言語だといわれますが、 大人になってからでも、多言語の難しい筋肉の使い方、たとえばLとRの違いなども表現できないわけではなく学習が可能なのだということがわかります。そして、幼いうちに、日本語に必要のないLとRの違いなどは、わざと脳が無視して育つだけなのだということなのです。しかし、これらは今の段階でいえることなので、今後の研究次第では、違う説が出てくる可能性は残されています。

小学校5〜6年の英語が必須になるとのことですが、それはこれまでの受験英語の反省からきています。言語はあくまで、自分を表現したり人を知ったり考えたりする道具です。汗腺の数は生後数ケ月過ごした環境によって決まると言われますが、言語もまた、人が生きていく上で大切な要素であるといえます。その意味では、日本にいる今、まずは身の周りの環境にあわせ、日本語を自分のものとし、人との関わりを学ぶことが大切なのではないでしょうか。 (保護者用プリントから)

                                                 福岡 潤子

 さて、このようなプリントをお配りし、話をしておりましたとき、何人かのお母様から、ご質問やご意見を受けました。また、納得なさっておられないご様子の方もおられました。

 「幼児期に母国語をしっかり入れていないと、中学生になってから、形容詞だ・助詞だといっても、理解できない。まずは、指示代名詞や単語だけでコミュニケーションをとるような子どもではなく、日本語を正しく使えるようになることが大切だと思います」(現在ご長男が高校生、ご長女が中学生の保護者)

 「やっぱり、みんな英語を習わせているし、近くに教室もたくさんあるし…」(現在1歳数ヶ月の白金にお住まいの保護者) ←「英語の歌やお話を聴くことに親しませるといいと思います。発語は後からでもだいじょうぶではないでしょうか(福岡の意見)」

「知り合いでMBAを取得したような方も多いのですが、外国の方とフランクにお話しない方もおられます。なぜでしょうか」(保護者) ←「話すことで、ご自分の英語のレベルを評価されると思っておられるかもしれませんね。または、自分なりの意見をお持ちでないから。そして、その場の雰囲気を察知し会話に入ろうというお気持ちが薄いのかもしれません(福岡の意見)」