3月25日付け

インターネットWATCH『団藤保晴の「インターネットで読み解く!」』

テーマ 『子供たちの新しい『荒れ』』 

 これは電子メール新聞『インターネットWATCH』紙に掲載されたコラムです。

 コラムは最近の子供によるナイフを使った様々な犯行に対する文部大臣の異例の子供達への呼びかけの内容から始まっています。そして、神戸事件が決して特殊なものではないことを昨今のナイフ犯罪から見て取れること、解決策こそ容易に見付けられるものではないものの、そのヒントはインターネットに数多くあると述べ、以下はそのページ内容を紹介しながら教育問題について述べています。

 例えば先進国での教育現場の荒廃ぶりということについては、アメリカ存住の音楽家が「日本は子育ての環境が非常に良い。不思議に思えるかもしれないが、比較論の観点から見て急速に治安が悪くなっている外国の現状を考えると日本の環境のよさは際立っている。故に外国で高い評価を得ている人でも子供が一定の年齢に達すると帰国する人が多く、ページの筆者も結局他の人と同じ方針を採ることにした」という内容の紹介がしてあります。

 ついでアメリカ人の死亡統計ページを紹介しています。

それによると、15〜25才の青少年の死亡原因の第1位は事故死で、第2位が殺人、第3位が自殺となっていること。米国で年間に自殺する15〜25才の青少年は1992年度、4,693人 、同、5〜14才でも300人近くに達し、日本などよりはるかに多いことなどを挙げ、日本のいじめによる自殺に対して米国人の識者が余り語らないのはこうした現状を捉えているためであること。こうした現状に対し「自由に振る舞えばこれくらいの犠牲は出る」と米国人のように割り切るべきなのか、「米国社会の基本的な欠陥の一つ」と捉えるべきなのか、いずれにせよ「自由にはそれ相応のコストがかかる」と認識した方が良いと記しています。

 次はイギリスの学校で起こっていること、というページを取り上げています。

 それによると12,458人という人数が示され、それは、1994、5年度にイングランド(イギリスの東部地域)の初等・中等学校から永久追放された子どもの数であることを説明しています。

 イギリスでは日本同様教育問題やそれを解決するために様々な改革を行ってきましたが、最近ではこのような強硬手段がとられ、なおかつその数が増えていることを強調しています。

 以降は以下のように続いていきます。

 文部省の学校基本調査速報から長期欠席者(30日以上の欠席者)が過去最高を記録し、そのうち原因を『学校嫌い』を挙げる子もまた過去最高を示したこと。

 ベネッセ社の調査から83年と95年の10年余りの間に中学生の意識がどう変わったかを調査した結果、善悪に対する意識が大きく変化していることが判明したことや親への意識も大きく変わっていること、将来の仕事に対する意識もまた変化していることなどが紹介されていること。但し、この調査結果には筆者は若干違和感を覚えていることが加えられています。

 ついで大阪教育大のいじめに関する調査結果の紹介。この調査によると、いじめの原因はそれまでよくいわれていたような重箱の隅にあるようなものではなく、現代の子供達は人と人の関係の構築に失敗しているのではないかというのです。

 そして、いじめの最も重要な問題はいじめっ子・いじめられっ子のどちらが悪いと言うような問題ではなく、子どもの世界の相互作用能力・関係性能力全般の低下の問題だと指摘することができること。そしてその根元は現代の子供から濃密な人間関係が消えたことにある、としています。

 更にベネッセ教育研究所の調査から「世界の子供にとっての教師」のページを紹介しています。

 それによると「学校が楽しい」「今の学級・担任でよかった」と答えたのは調査地点中、日本が最低であり、「教え方がうまい」「子供から尊敬されている」といった教師個人に対する評価も日本が異常に低いことを伝えています。

 世界の教師を分析、分類すると、活動の場は学校内に限定されるが、子供1人1人を励まし、動機づける『カウンセラー型』と、集団を通してではあるものの放課後まで子供の事を心配する『保母(父)型』に分類できる。しかし、日本の教師はそのどちらにも属し難い中途半端な存在であり、それが低い評価に繋がったのではないかと分析しています。

 都教組の「各部のとりくみ」ページでは、教職員の成果の発表の羅列に対し、筆者はそうした頑張りを否定するつもりはないものの、主観的に忙しいから客観的に大丈夫なはずはない、と評し、技術を磨き直して本当のプロフェッショナルな教師になるしか日本の教師達の道はない、と記しています。

 日弁連のページの紹介では、教育情報の公開問題に集約されている点を挙げ、教育現場にある抑圧的な関係を解体して、子供と教師の間の風通しをよくすることが無条件で必要である、と述べています。

 最後に良い大学や企業に入ることだけを目標とする図式以外に目覚めることが重要であると提言し、自身のコラムページを紹介しています。

 良い学校…的な生き方では、来世紀に我が国はない、と延べ、本当に多様な生き方とは何かを社会全体で留保していないと、「良い学校…」からドロップアウトしてきた大量の存在を抱え、これからやってくるであろう更に深刻な教育問題を解決できることはできないであろうとしています。

 明日に希望が持てれば、苦しくても今日を生きられる。こうした人生の単純な法則を子供達にも認めてやらなければならない。と最後に〆ています。

 確かに中学生が変化しています。幼児や学童と違い、体は大人なのに心はまだまだ未熟、社会の中の不合理や自分自身に対する葛藤など、中学生は昔も今も不安定な年代です。が、今ことさら取りたてて言われ出したのは、他人に及ぼす事の重大さからきています。いじめや不登校は勿論、自殺や殺人にいたっては、人間としての存在に関わる一大事、社会そのものに対する挑戦状とも言えます。

 いじめや不登校に対しては、まだ社会全般の温度が低かったのにナイフ殺人にこれだけ関心が高いのか、それは、いつ自分や身の回りの人に危害が加わるか分からないからです。つまり、社会全体を変えていかなければ防ぎようがないという一言に尽きます。神戸の中学生の事件の時のように「あの子は特別」と、言っている訳にはいかなくなったといえます。

 個人主義の行き過ぎや自由であることのコストという指摘がなされていますが、これには異論があります。どんなに個を叫んでも、この世の中では社会(集団)から切り離れて生きることはありえないからです。

 雑多な(他)があっての(自)であり、健全な社会があって初めて安全や自由が保障される。従って個人主義そのものをとやかく言うのはお門違いであると言えます。

 意識調査による結果を見るまでもなく、日本人の美徳とされていた点が失われていることは、日常よく感じることです。日本人はよい意味で他人の目を気にしてきました。人の心を思いやる心の余裕を持っていたと言えます。が、今はどうでしょう。自分は自分、人は人。このような風潮が見られるようになったのは、今成人である日本人全体の責任ではないでしょうか。が、ここでこれがあれがと上げても、一つ一つ変えていくには莫大なエネルギーが要ります。それより、今すぐに出来ること。それを一つでも二つでもやってみることが、我が子や自分の身を守ることにつながると思います。問題の提起だけではなく、その解決策や予防法を私なりに考えてみました。ご自分のお子さんの年齢の欄をお読み頂き実践し、良い結果が得られれば幸いです。

既に中学生の子の親である場合

1、 子供が話し掛けてきたら、どんなに他愛のないことでも耳を傾ける。

2、 親としての価値観をしっかりと持ち、それに反することを子供がしたら、真剣に叱る。

3、 学校には学校のルールがあるように、家庭には家族の間のルールがあり、それは皆で守るという事を知らせ、守らせる。それに反したときは、親の言うことに耳を傾けない以上子供の要求にも応えないようにする。

4、 テレビや新聞などのニュースを話題に出し、日頃から子供が何をどのように捕らえているか知る。その際、親も自分の受け止め方を話す。

小学生の親の場合(上記に加え)

1、 出来るだけ家族で行動を共にする。

2、 親の価値観をしっかり示す。「みんなそうだよ」「僕(私)だけ○○なんだもん」という言葉には屈しない。(我が家は我が家、他の家は他の家)

3、 出来るだけ本に親しませる。本を通し、多様な人間がいる事やさまざまな価値観に触れさせる。

4、 出来るだけ母親や父親の手伝いをさせ、家族の一員としての自覚や喜びを知らせる。

幼児の親の場合(上記に加え)

1、 1才からナイフを持たせる。危ないものは危ないと教え、安全な扱い方を身につける。

2、 性格や価値観が形成される時だという事をしっかりと自覚し、親として範を示す。

3、"おこちゃま"として接しない。身の回りに起きた事象について理解不能と思われても、優しい言葉を選んで説明する。

4、一人の人間として、尊重する。何を感じ何をしたいのかを理解し、させる事。子供が製作したものや関わった事について、大事に扱う。

5、 日頃から我慢をする機会を設定する。やりたくない事や投げ出したくなる事を、最後まで頑張らせ、やりぬく喜びを知らせる。

6、 周りの者や親がスポークスマンにならない。コミュニケーションの手段としての言葉を身につけさせる。

7、 自分のした事には責任を取らせる。忘れ物をした時に、安易に子供に誤らない。自分の物は自分で管理する事を知らせ、他人のせいにさせない。

  (幼児期に注意すべき点その他については、リクルートスタートページをご覧ください)

 人間関係の希薄さや言葉の不足など、幼児期に習得しなければいけない事が、その時期に身についていない。また、親が決めてしまう事が多い為、自分が自分として生きている感覚が薄い。考える力も育たない。その結果、幼い頃から問題意識が低く、当然解決能力も育たない。これらが幼児期に身につかないまま成長した結果が、最近話題の様々な問題を引き起こしていると、私は考えます。

 一人の人間として生きる事は、たとえ幼くても、自己責任が伴う事を知らせるべきです。そこで始めて幼児の心に自己が確立されます。その結果、よい意味で精神的に成長し、自分の意志や考えについて自分自身で考えるようになります。これを実践することで、今の若者に見られる諦めや責任転嫁といった傾向が少しでも減っていく事が期待されます。

 何より今の子供たちに欠けているのは、『人間が好き』という感情です。他人を認める事。それには自分を好きになる事が必要条件です。それには自分に対する誇りが育たなくてはならないと考えます。『こんな事が出来る』『愛されている』など。その為には努力が必要です。どんな小さな事でも頑張り通す力を身につけ、愛を実感できることで生きることが可能になるのではないでしょうか。

該当コラムのアドレス

http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/column/yomitoku/index.htm

文部大臣緊急アピール

http://www.monbu.go.jp/appeal1.html

1992年、米国人死亡統計

http://www.ilc.or.jp/user0/terasyu/Shibou01.htm

教育Today 岐路に立つ日本の教育(10)イギリスの学校で起こっていること

http://www.crn.or.jp/LIBRARY/MENU_NF.HTM

平成9年度学校基本調査速報

http://www.monbu.go.jp/news/00000118/

ベネッセ教育研究所「中学生は変わったのか」

http://www.crn.or.jp/LIBRARY/CYUU/VOL51/CONTROL.HTM

「“いじめ”問題に関する一考察」

http://kokeshi.cc.osaka-kyoiku.ac.jp/kyosha/ijime/resource/yufu.html

国際比較調査「子どもにとっての教師」

http://www.crn.or.jp/LIBRARY/HIKAKU/NO5/CONTROL.HTM

都教組「各部のとりくみ」

http://www1e.meshnet.or.jp/tokyouso/kakubu.htm

「93年日本弁護士連合会のカウンターレポート・問われる日本の人権《4》子どもの権利問題」

http://www.kt.rim.or.jp/~yhworld/JFBA/ctrt/Ctrt6.html

連載37回「ベンチャー再生の日を求めて」

http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/column/yomitoku/backno/980205/index.htm

(文、福岡潤子)