毎日新聞 『オトコの生きかた』 12月8日掲載

テーマ『母親の気質』 夫への不満を長男に

(抜粋)

1997年2月から5月にかけて、神戸市須磨区で発生した小学生連続殺傷事件についてはいろいろなことが語られてきたが、まだまだ分からないことが多い。特に事件の犯人である少年Aがどのような家庭の中で、人間関係のありかたを作ってきたのかがわからない。

公表された「少年の精神鑑定結果(概要)」には「家庭における親密体験の乏しさを背景に、弟いじめと体罰との悪循環の下で『虐待者にして被虐待者』として幼児を送り」…

例えば、少年Aは小学校3年のある日、母親にひどくののしられ、たたかれた。帰宅した父親からも怒鳴られて目がうつろになり、あらぬことを口走ったりして大阪の病院へ救急車で運ばれた。診察の結果は「軽いノイローゼ」ということであったそうだが、母親は医師から「しつけ」を控えなさいと注意を受けたという。

…A自身、家裁送致後に毎日のように弟をいじめたと述べている。とはいえ、兄弟げんかを見かねて兄をしかったりたたいたりする母などは世間にありふれているだろう。

 まず言えることは、少年Aの母が彼女なりの方法で長男を心から愛し、大切にしていたと思われることである。…

父親は短気で怒鳴ることも多かったという。この父親はAのことを自分に似ていると思っていたそうだから、母親もそう思っていたかもしれない。

 事実、母親はAを「ふだんはおとなしいのに、怒り出すと手がつけられなくなる子」とも考えていたそうなので、そうなると彼女の夫の特徴によく似ていることになる。Aの母は、この夫への不満や怒りをAに向け、そうした気持ちの高まりの中でAの気質の矯正を考えたのかもしれない。こうなると、単に兄弟げんかをしかられる兄の話ではなくなってくる。

 

   この連続小学生殺傷事件が報じられた頃、おどろおどろしい側面も加わり皆の心の中にいろいろな犯人像が描かれました。そして犯人が、実はどこにでもいそうな中学生だったことで、日本中に大きな動揺を引き起こしました。

 Aのような子はどうして作られたのでしょうか。もし、この記事にかかれたようなことが本当だとしたら、どうすれば良いのでしょうか。

 それは、母親自身が周りに八つ当たりをしないよう、精神的に大人になることです。他人の責任にしたり、自分の不満を周りに八つ当たりするのでは大人とは言えません。幼児の身近に居て影響力の大きい母親が、自分の感情をコントロールできるようになる。つまり、思い通りにならないことを自分自身で解決するための前向きな思考力や実行力を早急に身につける必要があります。

 父親がちょっとのことでキレル。つまり、あたる。それを受けた母親が同じ行為を我が子に行なう。それをされたAは弟や周りの小学生にあたった。結局それが世間から見れば犯罪という行為にほかならなかった。このような図式を立ち切るには、どこかで誰かが成長しなければなりません。

母親は、子どもが言うことを聞いてくれないと「この子が悪い」と子どものせいにしてしまいがちですし、何かイヤなことがあるとつい我が子にあたってしまいがちです。

もちろんすべての母親がそうだとは言いませんが、母親の気持ちの中に『この子は私のおなかから生まれた子。良くも悪くも私が責任を持つ子なんだわ』という感情があります。つまり、安心してあたることができるのです。

子供も幼いうちは、どんなに母親に邪険にされても「ママー」と泣きながらついてきます。そのことが母親にとっては疎ましく感じられ、余計あたってしまうのかもしれません。

でも、子供はいつまでも幼児ではありません。確実に成長し、母親の手の中から外に出て行きます。その時はっきりと、我が子が自分の分身ではなく一人の人間なんだということに気づきます。つまり、自分の子育ての結果が自分自身に返って来るのです。

子育ての責任は父親にもあります。オトコの生きかたという題からすれば、父親自身が夫としてもっと精神的に成長すべきだったと責められるべきです。が、その父親も、幼い頃母親(オンナ)の影響を大きく受けて成長してきたのです。

 鶏と卵ではないですが、このホームページをご覧のお母さん、お父さん。お互いに相手のせいにしたりせず、自分の感情をコントロールし本当の意味で大人になることが一番求められているとは思われませんか。

 

                       (文、福岡潤子)


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